前回は雑貨業界小さな企業の海外チャレンジ 海外展開の必要性と始め方を解説しました。
どの国に展開?
海外展開を決定する際に、最初にどの国に展開すべきか。雑貨業界においては、通常、アジア圏(主に東アジアおよび東南アジア)への展開を考える事業者が多いのも事実です。
アジア圏は、日本との文化やライフスタイルの類似性が高く、雑貨商品の好みも似通っています。また、衣料品などにおいては、身長や体型も日本人と近いため、日本製品のサイズを変更する必要が少ないという利点があります。さらに、日本製品への信頼度が高いため、現地の消費者にとって日本製品は魅力的であり、特に中国市場などでは、雑貨商品は日本語のままのパッケージで、あえて現地の言語にローカライズする必要がない、といった場合もあります。
さらに、円安の影響で、アジア圏の国々から日本製品を安価に調達することができ、輸出の機会も増えています。
コロナ禍以前から、アジア圏からのインバウンドで日本製の雑貨商品を大量に購入している旅行者のニュースなどを見て、アジア圏は雑貨商品を売りやすい市場と考えられ、海外展開の最初の段階として、アジア圏への展開を優先的に検討する事業者が多いと思われます。
一方で、アジア圏への雑貨商品の展開には、いくつかのリスクが存在します。主なリスクをいくつか挙げてみますね。
- 言語リスク:日本とライフスタイルの類似性があるとはいえ、アジア圏の各国はそれぞれ異なる言語が文化あり、それぞれの国に合わせる必要があります。
- 法的リスク:各国には異なる法律や規則があり、それぞれの国に合わせた法規制を理解する必要があります。
- 競合のリスク:似たような文化だからこそ、既に似たような商品が沢山存在しています。また、商品がコピーされやすい傾向にあり、サイバーセキュリティやプライバシーのリスクも考慮する必要があります。
- 為替リスク:アジア圏の通貨は変動しやすい場合があります。現地通貨の価値が変動することで、取引や価格設定に影響を与える可能性があります。
- 政治的リスク:国家間の対立や政治的介入により、突然の不買運動などが起こる可能性があります。
アジア圏の中でも、最初に1つの国を選択して展開する市場としては、人口も富裕層も多い中国市場を考慮することが一般的ですが、中国のビジネス慣習を知らずに始めるのはリスクが高いです。長年にわたり中国市場での商品販売や現地でのビジネス展開の経験を持つ専門家のアドバイスなどを聞いて進めることが重要です。
なぜ中小、零細企業の雑貨業界がアメリカ市場で展開を目指すべきか
これまで、一般的に日本の雑貨事業者が海外展開を目指す場合、最初に展開を考える市場としてはアジア圏が多いことをお伝えしました。
ここからは、長年アメリカ国内で雑貨業界に携わってきたことで、なぜ日本の雑貨事業者がアメリカ展開を目指すべきかをお伝えいたします。
現在、多くの事業者が円安だからという理由でアメリカ展開を検討することが多いですが、円安はいつまで続くか問題もありますので、それ以外の項目で見ていきます。
最初に、ざっと主な理由を大まかにお伝えします。
- 人口が多い: アメリカの人口は日本の約2.6倍であり世界第3位、2023年時点で約3億3999万人で、前年比で0.5%増加し、先進国で唯一人口が増加している。
- 経済が堅調: リーマンショックやコロナのパンデミックなどで経済に打撃があっても、経済が復活する底力がある。
- 日本と友好的: 日本とアメリカは友好国で、政治的なリスクが少ない。
- 日本文化が浸透:日本食やアニメは言うまでもなく、最近はスポーツ選手などの活躍もあり、日本文化がアメリカにも浸透してきており、興味を示す人がさらに増えている。
- 英語圏:英語さえ使うことができればビジネスが可能。他の欧米諸国や、世界中でのグローバル展開もしやすくなる。
アメリカがなぜ魅力的な市場かを大まかにリストアップしましたが、これからもう少し詳しく見ていきす。
1)人口が多い
アメリカの出生率は2023年度で1.84であり、コロナ禍の2021年では、コロナ前よりも出生率が増加したという統計もあります。出生率はこのところ横ばいで、他の先進国同様に減少傾向がありますが、アメリカへの移住希望者も後を絶ちません。そのため当面の間は人口減少が見込まれません。日本の人口の2.6倍の人が住んでいれば、仮に一人が同じ金額を消費した場合、日本の2.6倍の消費額となります。
弊社のビジネスでは、2007年頃から欧米のベビーキッズのアパレル雑貨ブランドの正規代理店として日本市場で展開し、販売してきました。しかし、日本の出生率低下による少子化の影響は相当なものであり、競合他社の台頭や現在の円安による日本製商品との価格競争力の低下なども考慮されます。それでもなお、毎年の出生率の低下がもたらす赤ちゃんの人口減少による影響が最も大きいと感じています。
一方で、2015年頃から取り組んでいる日本製の雑貨商品をアメリカ市場向けに展開し、販売するビジネスは、競争が激しい市場であるにも関わらず可能性が見えています。でももちろん、その日本の商品がアメリカ市場に受け入れられるということが前提ですが、アメリカの販売店、そして消費者の購買力は日本とは比較になりません。アメリカの人口が多いという点だけで、購入してくれる人が多くなる可能性があり、販売を拡大できる可能性が高いです。
そして、アメリカには多くのアジア人も住んでいるため、アジア人を含めた販売がアメリカ市場でも可能になります。実際、弊社のブランドの商品もアメリカ在住のアジア人から多くの購入をいただいております。アメリカ市場に商品を展開することで、さまざまな国から移住してきた多様な人々に商品を購入していただく機会が得られます。
2)経済が堅調
リーマンショックやパンデミックなど、経済が冷え込んだ時期があっても、アメリカには持ち直す力があります。パンデミックを経験した結果、富裕層はさらに富を蓄え、ホームレスの数は増加しましたが、同時に新しいビジネスが次々と生まれ、経済を支える土壌が存在します。貧富の差は日本と比べると非常に大きくなっていますが、それでも経済は持ち直しています。
2023年のアメリカの平均収入は約$94,000(約1300万円)で、日本の約3倍もあります。もちろん、日本の給与体系や福利厚生などは異なり、(たとえば、通勤交通費を支給する企業や、年2回のボーナスを保証する企業などはほとんどありません)健康保険や医療費などは日本とは比べ物にならないほど高額ですので、一概に比較はできません。
パンデミック後の急速なインフレの影響で、低所得者や中間層はますます生活が苦しくなっていますが、アメリカは世界でNo.1の消費大国で、お金を惜しみなく使う人が日本に比較しても圧倒的に多いです。また、アメリカには海外から多くの観光客が訪れることから、観光客の消費力も加わり、人々が使うお金は日本人と比較すると桁違いです。
3)日本と友好的
戦後、日本とアメリカは友好国を続けていて、G7という枠組みにおいても2国間の関係は強固です。大統領や政党が変わると経済や日本企業のビジネスに影響が出ることもあるので、今年の大統領選は注視する必要がありますが、アメリカと友好国の日本は、そうではない国と比較してもビジネスがやり易い国です。
アメリカに移民してきた様々な国の人たちと話をしても、日本人は一般的に頭が良く真面目で一生懸命というイメージがあり、経済的にも安定していて国際的にも様々なところで貢献していると知られており、アメリカという国の中で好意的に受け入れられている国だとよく言われます。
たとえば、アメリカでは、一般消費者向け商品、特に雑貨商品は中国製の商品で溢れていますが、アメリカでは中国を敵視する政治家の発言などで、経済界も中国に対して警戒感を抱いたりしてビジネス環境に悪影響を及ぼすこともあります。
製造を中国からアメリカに取り戻そうという政府の動きや、Made in USAを強調している雑貨商品も以前に比べてかなり目にするようになりました。しかし、アメリカの平均給与、時給が高いことをお伝えしたように、雑貨商品をアメリカ国内で製造するのは非常にコストが高くなることも多いため、やはり中国に頼らざるを得ないという企業も多いですが、中国に代わる国での製造を模索する企業も増えています。
日本がアメリカと友好国であることから、日本の雑貨業界にとって、アメリカ展開の門戸は広く、ビジネスがやり易いことは間違いありません。
4) 日本文化が浸透
アメリカの大学院でビジネスを学ぶために、30年前に初めてニューヨークに渡りました。その時から今日に至るまで、日本の文化がアメリカ人の生活にどんどん浸透していることを実感しています。
ニューヨークの大学院を卒業後、夫の仕事の関係で1年半ほどノースカロライナ州に住んだ経験があります。当時、そこではアジア人がほとんどおらず、日本食レストランも数店舗しかありませんでした。ある日、ノースカロライナで知り合った日本人女性のお子様が学校に海苔が巻かれたおにぎりを持って行ったところ、お友達から気持ち悪がられ、お母さんにもう海苔で巻いたおにぎりを作らないで欲しいと懇願されたとのことです。また、夫の親戚がインディアナ州に住んでいたため、ノースカロライナから車で何度か訪れたことがありますが、日本食といえば、包丁などを回したり、鉄板の上で食材を使ったショーを交えた鉄板焼きが定番で、お寿司を食べる人はほとんどいませんでした。
しかし、何年か後に再訪した時には、日本食を食べに行こうと誘われたり、日常の食事の中にラーメンやその他の日本食の名前がちらほら聞こえ、魚を食べることにも抵抗がなくなっていました。車はもちろん日本車でした。
夫の仕事の関係でシアトルに越して25年ほどたちますが、シアトルはアジア人も多く、日本の食材を販売するスーパーもあり、移住当初から日本人にとっては住みやすい場所でした。しかしながら、アメリカに移住してから今日まで振り返ると、シアトルに限らず、アメリカ全体で日本文化が年々浸透していることを感じます。
多くのアメリカ人が日本車を選び、日本食を好んで食べ、子供のころから寿司や刺身を食べさせる家族も増えています。ラーメン店が続々と進出したり、抹茶パフェなどもよく目にするようになりました。子供たちはNintendoやPokemonのゲームや、日本のアニメを楽しんでいますし、日本のKawaiiやWabi Sabi、Ikigaiなどの単語が日常の会話の中でも使われることもあり、数年前と比較しても、日本の雑貨商品を販売するショップが増えてきています。アメリカでの日本の文化への受容は増しており、日常生活に浸透してきています。
これらの理由からも、アメリカで日本の雑貨を展開する環境が年々整ってきていると言えます。
5)英語圏
最後に、日本の雑貨業界がアメリカ展開をすべき理由として、アメリカが英語圏である点を説明します。
日本人は義務教育でアメリカ英語を学びます。日本では、英語を話す必要がなくても、英語が日常生活の中で広く使われています。そのため、ビジネスを行う人々は、英単語に一定の理解を持っています。一方で、フランス語やイタリア語、ドイツ語、中国語などになると、ほとんどの人が改めて学ばなければ理解できません。
日本国内で、英語の単語が日常生活でもよく耳にする、自然に会話の中で使われていることを考えると、ビジネス英語を学ぶことは、他の言語に比べてハードルが低いことがわかります。現在、生成AIにより翻訳も瞬時に行え、その翻訳された英語を見て、大まかな内容を理解することが可能です。これは他の言語では難しいです。
また、1)の人口が多い、の理由でも述べましたが、アメリカ市場には多くの移民が住んでいます。雑貨商品は、食品や化粧品、電気製品などと比較し、使用方法などにそれほど複雑な説明が必要がないものが多いため、特に販売がしやすいアイテムです。
様々国から移民した様々な人種が住んでいるアメリカの市場で受け入れられた雑貨商品は、世界的にも受け入れられやすいと言えます。
英語が世界の共通語であるため、アメリカ市場で商品を展開することができれば、アメリカ以外の英語圏でも展開がしやすくなります。
ここまで、ざっと雑貨業界がアメリカ展開を目指すべき理由を大まかにおつたえしました。
次回は、自ら日本の雑貨商品のアメリカ展開をチャレンジしてきて感じたことを思うこと、などをお伝えしていきます。