雑貨業界小さな企業の海外チャレンジアメリカ市場へ:展開商品選びでよくある誤解 3
- 日本に旅行に来たアメリカ人がお土産に購入する商品が売れる
- 日本で販売している商品をそのまま販売しても売れる
- 自社で一番売れている商品が売れる
- 日本語表記があるほうが売れる
- 日本文化を強調したようなデザインのほうが売れる
これまでに、「日本に旅行に来たアメリカ人がお土産に購入する商品が売れる」という誤解と、「日本で販売している商品をそのまま販売しても売れる」という誤解について見てきました。今回は、事業者が海外展開を考える際に、日本国内で一番売れている商品がアメリカでも売れると考える誤解について見ていこうと思います。
自社で一番売れている商品が海外でも売れるという誤解
今回取り上げるテーマも、これまで見てきた2つの誤解とも繋がるテーマです。日本国内向けに販売を開始した商品が、最近の円安で多くの外国人観光客が日本に来て、外国人に商品が予想外に売れることもあります。そのため、海外展開をする際の商品選びがますます難しくなってきていると感じます。
では、海外展開を決めた際、展開する国の市場のニーズやトレンド、文化やライフスタイルを十分に理解し、その市場に合わせた商品を開発、製造、販売を試みようとしていますか。それとも、自社で一番売れている商品が海外でも売れると決めつけていないでしょうか。
今の時代、日本市場には無いものは何もないというほど、雑貨商品は市場に溢れています。ありとあらゆる商品が日々生み出されているその競争が激しい市場で、商品が売れる理由は様々あります。これまで市場にその商品がなかったとか、デザインがユニークとか、競合他社の商品よりも品質や機能性が高いとか、パッケージがお洒落とか、価格優位性があるとか、長年の信頼と実績で有名とか、販売力のある店舗が売ってくれているとか。商品そのものが優れているという理由だけでなく、営業力があるとか、購入後のカスタマーサービスが素晴らしいとか、新しい売り方が消費者にヒットしたとか、マーケティングが上手とか、広告宣伝費を大量に使えるとか、有名人が使ってSNSで発信してくれたとか、奇想天外なネーミングがよかったとか、有名ブランドとコラボして売れたとか。様々な理由で商品がヒット商品になることもあります。
日本と文化が似ているアジア圏への展開では理解しやすいかもしれませんが、アメリカ市場に商品を展開する際には、「一番売れているから売れるはず」という固定観念を捨てることが重要です。事業者が日々、工夫やアイデアを凝らして商品を開発し、販売してすごくよく売れた商品には強い思い入れがあります。特に、長年日本国内で販売実績がある人気商品であれば、日本市場ではどのようなターゲット層に、どのような販売チャネルを通して、どのように売るか、ある意味ルーティーンのようになってしまいますので、販売実績を積んだ人気商品ほど、アメリカ市場でも販売したい、きっと売れるだろうと考えるのは当然のことです。また、アメリカ市場でも商品のターゲット顧客層や販売チャネル、売り方を日本市場と同じように連想してしまうのも普通のことです。
これまで見てきた内容とも多少重複するところがありますが、自社で一番売れている商品がアメリカ市場では売れず、日本国内ではそこまで売れていなかった商品が売れることもあります。これは、日本の雑貨をアメリカで展開しようとした経験から見えてきた体験談をもとにいくつかの例を見ていきます。
なお、このブログではライフスタイル雑貨商品に絞って解説しています。一般消費者向け商材でも、アニメ関連グッズや食品などの商品カテゴリーでは状況も異なりますので、あらかじめご了承ください。
生活習慣の違いで、一番売れていてもアメリカで売れない
では、生活習慣の違いからアメリカ展開のライフスタイル雑貨、特にファッション小物についての例を見ていきたいと思います。日本のファッション小物は、基本的に日本人のライフスタイル、嗜好、日本人の体形や好むトレンドを基準にして開発、デザインされています。
例えば、日本の都市部では鉄道網が非常に発達しており、通勤や外出に公共交通機関を利用するのが一般的です。例えば、東京や大阪では電車や地下鉄が主要な移動手段となっています。よって、多くのライフスタイル雑貨は、電車や公共の交通機関を使って通勤、出かけることが前提でデザインされ作られたものも多いです。例えば、都心部のライフスタイルは、日本では、通勤やお出かけに公共の交通機関を使う生活習慣に合わせた足元の商材が発展していると感じます。
アメリカに住んで30年になりますが、日本に仕事で年に何度か帰国します。その際に日本で電車に乗って座っているとつい前に座っている人の足元を見てしまいます。実際、私自身が靴下フェチで、会社でも足元商材を多く扱っていることもあって、駅の階段を上る際にも、エスカレーターでも、電車を待っている間にも、レストランなどでも人々の足元を見てしまいます。最近では日本でもスニーカーやスポーティな靴下などで通勤する人たちも増えてきていますが、女性ではパンプスにストッキングや、お洒落な靴やサンダルにお洒落な靴下を合わせたファッションをよく見かけます。公共の交通機関を使って出かけることで人に見られるという意識が高いのだろうと思いますが、真夏でも、お洒落な靴下を履いている人が本当に多いです。
一方、アメリカの市場を見てみますと、夏場はアメリカの百貨店、ブティックや雑貨店から、ファッション靴下の売り場がほぼ消えます。もちろん、ナイキやアディダス等の、スポーツ系ブランドの靴下や、靴下そのものに面白いメッセージが施されたギフト商材の靴下は年中売り場にありますが、一般的なファッションに合わせる靴下はほとんど売り場からなくなります。
その理由の一つに、アメリカ人は夏に裸足で足元を見せる習慣があります。アメリカの女性の多くは、夏に綺麗にペディキュアを施し、それを見せるファッションを好みます。ネイルサロンは夏場は大流行です。
アメリカで子供を育てた経験からとても驚いたことは、娘が小学校の時に「Spa Day(スパ ディ)」という日があり、学校でマニキュアやペディキュアをしてくれるということです。娘は帰宅するなり、自分の綺麗になったネイルを見せて自慢していました。自分が通った日本の小学校では到底考えられないことです。
子供の時からネイルを学校でもやってもらうくらいですから、夏はリゾート地だけでなく、ウォーキングやランニング、ジムに行く場合を除き、どんな場所にもサンダルでペディキュアを見せるファッションで過ごす人がほとんどです。男性も、ビーチサンダルや素足にサンダルといったスタイルが多く、夏場にデザイン性が高い靴下を買う人はあまりいません。
また、アメリカでは車社会で、国土が広いため、特に郊外や地方では自動車なしでは移動が困難なことが多く、多くの人が通勤や日常の買い物に車を利用します。日本のように公共交通機関が発達していないため、目的地まで車で行くことがほとんどです。日本での生活と比較して、ウォーキングや犬の散歩など、歩く時間を作る以外、日常で歩くことが圧倒的に少ないです。たとえば、裸足でハイヒールを履いていても、歩く距離が限られているため、靴ずれで悩むことがほとんどありません。
公共の交通機関が発達しているニューヨークでも、通勤にはスニーカーがほとんどですし、デートや友人との食事やお出かけもカジュアルな恰好が多いため、ファッション性の高い靴下を履く機会が日本に比べて格段に少ないのです。通勤にお洒落な靴にお洒落な靴下を履いて電車やバスに乗るという光景もあまり見られません。
ちなみに、アメリカの女性はほとんどパンストを履きません。日本で育った私は、日本の企業で働いていた時は必ずパンストを履いて通勤していました。アメリカに来たばかりの頃、夏にパンストを履いていると、多くのアメリカ人からなぜ夏なのにパンストを履くのかと疑問視されました。実際、年中季節を問わず、日常的にパンストを履いている人はほとんどいません。アメリカの百貨店にもパンストの売り場はありますが、日本のように様々な種類のパンストを揃えているわけではなく、肌色か黒の2色がほとんどです。アメリカ人は夏にはパンプスでも素足で履く人が多く、日本とは素足を見せることに対する考え方が異なることを知りました。
日本には、高品質でデザイン性の高い靴下を製造販売しているメーカーや事業者が数多くあります。日本の高温多湿の気候に合う素材を駆使して快適に履ける靴下を開発したり、ファッショントレンドを意識したデザイン性の高い靴下などが次々と販売されています。春夏の季節にはお洒落な靴下が販売店の売り場を彩っています。
しかしながら、日本でお洒落でデザイン性の高い靴下が一番売れていても、アメリカの生活様式や嗜好の違い、季節によっては店頭の売り場面積が縮小することもあり、アメリカではほとんど売れない商品になることもあります。
もちろん、日本のファッションを提案したり、新たな靴下と洋服の合わせ方、履き方などを提唱することで、日本のデザイン性の高い靴下をアメリカ市場に浸透させることができないわけではありません。ただし、生活様式が異なり、トレンドが変わりやすいファッションアイテムの場合、中小の事業者にとってはハードルが高いアイテムでもあります。
次に、お風呂関連雑貨について見ていきます。
日本人の多くは、夜にお風呂に入って湯船に浸かるという家庭で育ったのではないでしょうか。湯船にゆっくり浸かるのは日本のライフスタイルの一部です。お風呂関連グッズが、会社で一番売れている、という事業者も多いのではと思います。
湯船に浸かることでの疲労回復、血行促進、美容効果などもあり、日本人はお風呂や温泉が大好きです。そのため、市場にはお風呂関連商品、たとえば入浴剤やお風呂上りに使うと良いとされる雑貨商品などが溢れています。
私自信、日本に帰国する度にホテルでお風呂に浸かるのが楽しみで、ついつい、入浴剤や、お風呂上りに使うと疲労回復促進などのグッズを買って試してしまいます。
では、アメリカの一般的な家庭ではどうでしょうか。アメリカの家庭では、毎日家族全員が湯船に浸かるという習慣はほとんどありません。一般的なアメリカの家庭では、シャワーで済ませる人がほとんどです。日本のお風呂場のように、身体を洗う場所とお風呂が分かれている構造ではないため、日本人のように身体を洗ってから湯船に浸かることはなく、お風呂にお湯を溜めて浸かる場合は、アメリカの映画によく出てくるシーンのように湯船で泡を立てて身体を洗うことが一般的です。
そのため、一人一人がお風呂に浸かった後に、お湯を捨てて、次にほかの家族がお風呂に入るたびに毎回掃除するのが面倒という人が多く、シャワーを浴びて終わる場合が大半です。赤ちゃんの身体を洗う場合も、日本のようにお父さんやお母さんがお風呂に入るときに一緒に入れるということはあまりなく、赤ちゃん専用の浅い湯舟のような道具を使って洗ったり、キッチンのシンクで赤ちゃんの身体を洗ったりすることもあります。
日本には、入浴でリフレッシュやリラックスすることを前提に開発された入浴剤や便利グッズがたくさんあります。しかし、夜にお風呂に入って血行促進や疲労回復など健康促進をサポートするアイテムをアメリカ市場で展開する場合、一般的なアメリカ人には、日本のお風呂のようにお風呂を沸かしたら家族全員が同じお湯につかるという習慣がほぼないことや、毎夜湯船に浸かることがほとんどないことを前提に考え、商品を開発・選ぶ必要があります。
日本のお風呂文化をアメリカでも浸透させるために、長い目で少しずつでも啓蒙活動をしていくことも大切だと思いますが、そのためには一般的な住居のお風呂場の設計なども関わってきます。アメリカ人がどのようにお風呂やシャワーを使うのか、どのように身体を洗うのか、タオルをどのように使うのかといったアメリカの一般的な生活習慣を把握し、展開する商品を選ぶことが重要です。
今回は、日本とアメリカの生活習慣の違いについて、日本では自社で一番売れている商品でも、アメリカでは売りにくいことがあることを見てきました。このトピックについてはもう少し深く見ていきたい項目でもありますので、次につなげていきたいと思います。