雑貨業界小さな企業の海外チャレンジ アメリカ市場へ:展開商品選びでよくある誤解 4
- 日本に旅行に来たアメリカ人がお土産に購入する商品が売れる
- 日本で販売している商品をそのまま販売しても売れる
- 自社で一番売れている商品が売れる
- 日本語表記があるほうが売れる
- 日本文化を強調したようなデザインのほうが売れる
今回のブログでは、4. 「日本語表記があるほうが売れる」の誤解について見ていきこうと思います。
中国や他のアジア圏からの訪日観光客が、日本の商品を爆買いして帰るという光景が、コロナ以前はよく報道されていました。当時、日本の雑貨メーカーの方々がよくおっしゃっていたのは、アジア圏、特に中国から日本に観光に来る人々は、「日本製」と書かれていないと購入しないということでした。また、中国を中心としたアジア圏に商品を輸出販売する際には、日本語がパッケージに書かれていないと売れないため、あえてパッケージをその国の言葉に翻訳せず、日本語をそのまま残したパッケージで販売しているとおっしゃっていました。
アジア圏の人々にとっては、商品やパッケージに日本語が書かれていることが、「日本製」という安心・安全・高品質の象徴であり、それこそがブランドであり、商品の価値を高めると考えられているようです。
アジア圏からの観光客、特に東アジアの国々からは、日本語で「日本製」と書かれているものや “Made in Japan” と記載されているものを選んで購入する傾向が高いです。しかし、アメリカからの観光客は、日本製であることや日本語での表記をあえて選んで購入しているのでしょうか。
コロナによる渡航制限がなくなった昨今、アジア圏のみならず、アニメや日本食の普及に伴って日本文化への興味が高まっている欧米諸国からも、多くの観光客が円安や治安の良さを理由に日本を訪問しています。かつては「コト消費」が圧倒的に高かった欧米諸国からの観光客も、最近では日本滞在中の楽しみの一つとしてショッピングを挙げる人々が増えてきているようです。
欧米諸国からの観光客が日本で何を購入しているかは、日本のニュースでもよく報道されていますが、アメリカからの観光客が日本で雑貨を購入する際には、アニメファンのアニメ関連商品を除けば、日本旅行の思い出になるような商品や観光地で販売されているお土産品が多くを占めています。
たとえば包丁やナイフなど、アメリカでも日本製が有名なアイテムは、日本で購入しようと考えるアメリカ人も多いですが、一般的な雑貨商品に関しては、「日本製」と日本語で書かれていたり、”Made in Japan” と英語で記載されているからといって購入する人はあまり多くありません。
アメリカから日本を訪問する観光客の多くは、たとえばTシャツに日本語が書かれているものなど、意味がわからなくてもお洒落だと思って購入する方が少なくありません。その際、日本製かどうかはあまり関係なく購入されています。日本語を勉強していて読み書きが少しでもできる人は別ですが、多くの観光客はお店で見つけた商品のデザインがかわいい、お洒落、おもしろい、かっこいい、そして使いやすい、便利といった理由で、日本製に限らずさまざまな商品を購入しています。
ここからは、インバウンド消費から見える傾向ではなく、日本の雑貨商品をアメリカに展開する場合について見ていきましょう。
先に述べたように、アジア圏ではあえて日本語のパッケージを残し、「日本製」と書かれている商品のほうが圧倒的に売れる傾向があります。しかし、アメリカの一般的な販売店においては、日本語を残した商品が必ずしも売れるとは限りません。
日本の事業者がアメリカで日本の商品を展開しようとする際に、アジア圏からの訪日外国人が多く購入したというデータをもとに、その商品がアメリカでも売れると判断してしまうことがあります。また、アジア圏で売れた商品や、欧米諸国からの訪日外国人が日本で購入した商品をそのままアメリカに展開しても、同様に売れると考えてしまうことについて、以前のブログでも解説しました。
これまで多くの日本の雑貨商品のアメリカ展開に携わってきましたが、展開を決めた事業者の多くが、アジア圏での展開と同様に、日本で販売されている商品をそのままパッケージを変えずに販売開始することが多いのは事実です。パッケージを変えるとなるとコストがかかりますし、売れるかどうかもわからない段階で、パッケージをどう変更すべきかも明確でないため、まずはコストを抑えてアメリカで販売を開始したいという気持ちは理解できます。
もちろん、アメリカで商品を販売する際には、法律で定められている必要不可欠な情報、たとえば製品の素材情報、洗濯表示や取り扱いの注意事項などは英語に翻訳してパッケージに記載する義務があります。それらは必ず対応しなければなりませんが、日本語が書かれているパッケージや日本のパッケージのままの商品が、問題なく売れる場所、販売店、消費者がいる一方で、そうでない場合もあります。
たとえば、アメリカにもロサンゼルスのリトルトーキョーのように、昔から日本人が多く住んでいる地域や日系のビジネスが多く並ぶ地域にある販売店、または日本の食材や雑貨を取り扱っている日系の雑貨店などでは、日本語が書かれているパッケージの商品が販売されても、消費者はそのお店を「日本の商品を扱う店」と認識しているため、アジア圏で見られるように日本語表記がある商品のほうがよく売れるという法則が成り立つことがあります。私が住むここシアトルにも、インターナショナルディストリクトと呼ばれる地域があります。戦前はジャパンタウンとして知られ、多くの日本人が住んで商売をしていた場所です。現在では中国系のビジネスもかなり増えていますが、この地域には宇和島屋という日本の食材を扱っている販売店や、紀伊国屋書店、日本食レストラン、日本の雑貨を販売している雑貨店もあります。この地域では、日本語表記を残したままの商品が多く販売されています。
しかしながら、日本の商材を多く扱っている販売店や日系の雑貨店などとは全く関係のない、一般的なアメリカの雑貨店や販売店では、日本語表記が多い商品は敬遠される傾向にあります。
ここで、日本製の商品をアメリカ市場に展開した際のエピソードを交えて説明します。
ある時、お洒落なパッケージで包まれていた日本製の商品が非常に気に入りました。パッケージには日本語が書かれていましたが、ギフトアイテムとしても販売できると考え、必要最低限の情報、たとえば商品の機能、特徴、素材、取り扱い方法のみを英訳し、”Made in Japan” と記載したステッカーをパッケージの裏側に貼って販売したことがありました。パッケージの前面には「日本製」と書かれ、商品の機能や特徴がほぼ漢字で表現されていました。
この商品を購入されたアメリカのお客様が、レビューを書いてくださったことがありました。そのレビューは5つ星でしたが、その内容を拝見して驚きました。
「Made in Japanと思って購入したら、実はMade in Chinaだった。パッケージにもMade in Chinaと書かれていたが、それでもとても気に入った。」
私はこのお客様に、レビューをくださったお礼と共に、お買い上げいただいた商品は中国製ではなく日本製であることをお伝えしました。すると、お客様はパッケージはもう捨ててしまったが中国製と書かれていたと主張されました。しかし、販売した商品のパッケージには日本製と書かれていたのです。このお客様は以前日本に旅行され、日本が大好きで、日本での思い出はすべて素晴らしかったともおっしゃっていました。
そこで、はっと気づかされました。私たち日本人、そして東アジアの中国人、韓国人は、日本語と中国語の違いを当然理解していますが、一般的なアメリカ人の多くは日本語と中国語の違いが分かりません。たとえ日本に旅行したことがある人であっても、日本語を勉強していない限り、日本語と中国語を区別することは難しいのです。これは、私たち日本人もスペイン語とポルトガル語、イタリア語とフランス語の違いを、その言語を勉強した人でなければ区別できないのと同じです。考えてみると、私自身一瞬でどこの国の言語か見て違いがわかるのは、英語、中国語、韓国語くらいで、それ以外の言語はほとんど区別がつかないことに気づきました。日本の大学で第二外国語として勉強したフランス語でさえも、イタリア語とフランス語を区別できるかと言われれば区別できないと思います。
日本人にとって、漢字で機能を表現することは、パッケージのスペースを有効活用でき、とても効果的でカッコいい感じになります。しかし、漢字のみを使った場合、たとえば「速乾」や「防水」といった機能や特徴が書かれていると、それが中国語と間違われやすいのです。たとえ「日本製」と漢字で書かれていても、それが “Made in Japan” を意味することを、日本語を勉強したり知っている人以外は通常読めません。現在では、携帯電話で文字をかざすだけで翻訳できるアプリもありますが、日本語の漢字と中国語の漢字や表現の違いを一瞬で判別できるアメリカ人はほとんどいないでしょう。
したがって、日本語をあえて残すことで「安心・安全・高品質」と思われるのはアジア圏の市場には当てはまりますが、アメリカ市場では必ずしもそうとは言えません。
日本語をパッケージのデザインとして残す場合、漢字だけにすると誤解されやすく、その中にひらがなやカタカナを混ぜて表現すれば、多少は中国語との違いが分かりやすくなります。ただし、それをお洒落だと思う人たちは、やはり日本語を勉強したり、アニメ好きの方々、もしくは東アジア圏からアメリカに移民したアジア人です。
レストランや食材とは異なり、雑貨商品の場合、アメリカの一般的な販売店に商品を卸す際、日本語が書かれているパッケージはすべて英語のものに変更してほしいと言われることが多いです。日本の商品を専門に扱っている雑貨店では問題ありませんが、多くのアメリカ人は、自分が読めない言語が書かれている商品を購入するのをためらいます。過去に、日本語がパッケージいっぱいに書かれた商品を紹介した際、バイヤーから「Scary(怖い)」と言われたことがありました。ここで「怖い」と表現されたのは、書かれている言語が読めず、理解できない商品を購入することに不安を感じるという意味です。日本語が読める私たちにとっては普通で、デザインの一部としてお洒落に見えるものでも、国や言語が違えば、書かれている文字が人によっては怖さにつながることもあります。
日本語をあえて残したい場合は、デザインの一部として一文字程度にするか、ひらがなやカタカナを含める、もしくはその意味や読み方を英語で添えるのが良いでしょう。ただし、パッケージにはスペースが限られているため、日本語と英語を両方入れるのはなかなか難しいのが実情です。
今回のブログでは、アジア圏とは異なり、アメリカ展開において「日本語表記があるほうが売れる」という誤解について取り上げました。日本語をあえて残したパッケージで商品をアメリカに展開する場合、商品や販売場所、狙うターゲット層によっては売れることもありますが、アジア系住民やアニメ愛好者、そして日本文化に詳しい人々、日本の食材や雑貨を中心に販売している店舗を除いて、一般的なアメリカの販売店では日本語表記のパッケージのままでは売れない可能性が高いことをお伝えしました。
次回のブログでは、5.「日本文化を強調したデザインのほうが売れる」という誤解について見ていきます。